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セミナーより

2015年10月25日 第4回セミナー 講演要旨

(1)「ALアミロイドーシス診断と治療の進歩」

    日赤医療センター 副院長・血液内科部長 鈴木憲史 先生

 

★はじめに

 今日はこれからの新しい治療の話を主なテーマにしていきたいと思います。 この病気は、早期診断が重要です。かなり悪くなってからいらっしゃる方も多くて、なかなか厳しいところがあるのですね。実際に私どものところで、この10年間で178人の患者さんを診ているわけですが、その中に診断1年未満で亡くなってしまう患者さんが50人もいらっしゃいます。病気の進行に検査が追いつかなくて、こちらに来た時には大変厳しいという人たちですが、特に心臓に付いている場合はとても厳しいです。また、透析になってしまう患者さんが18人。これも何とかできないか、早期診断で早期死亡を食い止めて、救える命を救う、また、腎臓透析にならないうちに早期診断及び治療でくいとめることが出来ないかというのが、今の課題です。

 昔は、わからないうちにどんどん悪くなって、半分くらいの人が比較的早期に亡くなってしまうという厳しい病気だったのですが、診断法が格段に進歩してきまして、今は心臓や腎臓の生検をしなくても、「骨髄検査」、「腹壁脂肪織吸引生検」、「血中のフリーライトチェーン検査」という3つの検査でアミロイドーシスの確定診断が可能です。骨髄と腹壁脂肪織の検査について、このあと宮崎先生からお話していただきます。 

 

★全身性ALアミロイドーシスの診断基準

 これ(スライド)は、海外の診断基準ですが、腎臓生験や心臓生験など、いろいろな検査をしているうちに、週単位でどんどん悪くなってしまう患者さんもいらっしゃるので、とても実用的で良いと思います。

 これによりますと、尿タンパクが1日0.5g以上出ていたら、腎臓にアミロイドがついていると判断しても良い、心エコーで心室中隔が12ミリを超えたら、心臓生検をしなくても心臓にアミロイドがついていると思っていいですよということですね。それからNT-proBNPが332以上、BNPでは少なくとも100以上あったら、明らかに心臓にアミロイドがあると考えてよいと。また肝臓に関しては、total liver span (肝臓の一番上から一番下までの長さ)が15センチ以上、またはALPの値が正常上限の1.5倍以上あったら、肝臓にあると判断し、生検しなくてもいいということです。

 他には、グローブストッキング型の知覚神経障害があるかということですね。消化管の場合は比較的内視鏡で生検が簡単ですので、生検をやったら良いでしょう。ただ、大腸とか胃は出血する可能性があるので注意が必要です。それ以外、舌が大きいとかリンパ腺が腫れているとか、付帯症状として診断の手助けになります。特に私自身とても手助けになっているなと思うのは手根管症候群ですね。聞いてみると手根管症候群をやったという人が多いのです。今の手根管症候群の治療は、組織を採らないで治療する方法になったので、わかりにくく、診断が遅れます。ですから、もし手根管症候群をやったという人がいたら是非アミロイドーシスという病気も考えてもらいたいと整形の先生達にもよくお話しています。

 

★限局性アミロイドーシスの場合

 血中のフリーライトチェーンが正常で、1つの臓器だけに限定している「限局性アミロイドーシス」である場合は、基本的には経過観察です。ただ、フリーライトチェーンが動いていた場合は治療対象になりますし、例えば腸だけであっても下血するとか、膀胱だけにあるけれども血尿が出るとか、そういう場合は治療の対象になります。

 

★「ALアミロイドーシス」と「多発性骨髄腫」

 年をとると、M蛋白(アミロイドのもとになる蛋白)というのが出てくる人はかなり多く、100人に1人位に出てくると言われています。M蛋白というのはバイキンが入って来た時にやっつけるミサイルみたいなもので、抗体と言います。人間の身体というのは、四六時中、見えないバイキンを抗体というミサイルでやっつけているのですが、その中でたまたま作った蛋白がベトベトで、そういう異常蛋白がどんどん出来て、腎臓、心臓、消化管、神経に付着したのがALアミロイドーシスです。一方、M蛋白の一部のものはどんどん腫瘍性の増殖が高まって、くすぶり型の骨髄腫から、いわゆる多発性骨髄腫になるということなのです。一部に多発性骨髄腫とALアミロイドーシスと両方合併しているという人もいらっしゃいます。その場合は、基本的には増殖が強いので多発性骨髄腫の治療が中心になるわけです。

① 遺伝子から見た相違

 ALアミロイドーシスの患者さんの30~50%、(当院では約40%)に、11番と14番の染色体の転座が見られます。多発性骨髄腫に関しても大体15%くらいの患者さんに11番と14番の転座がみられますので、そういう意味では、良性疾患ではあるけれど、悪性疾患である多発性骨髄腫にかなり近い病態なのですね。多発性骨髄腫とALアミロイドーシスでは、切断している所が違うということです。たまたま11番と14番がくっついた場所の違いで、多発性骨髄腫になったりALアミロイドーシスになったりするということがわかってきたのですね。ですから多発性骨髄腫とALアミロイドーシスは似ているけれど、非なる病気なのです。

②予後の違い

 ALアミロイドーシスで11;14転座が陽性の人と陰性の人では、その生存期間が違います。陽性の人の方が悪く、心臓に着いている率が高いです。ですから11;14転座がはっきりあると、細胞がどんどん増殖して骨髄腫に近いような病態になってしまうのです。ですから予後が悪くなります。多発性骨髄腫の場合は11;14転座があるほうが経過は良いのですが、ALアミロイドーシスでは逆に11;14転座があるほうが予後は悪いというような傾向がみられます。では、併発している場合はどうかというと、どうもALアミロイドーシスに引っ張られるのですね。「多発性骨髄腫に伴うALアミロイドーシス」では単独のALアミロイドーシスと同じ様な治療反応性を示しています。

③腎臓病変の違い

 腎臓に関しても、多発性骨髄腫の患者さんは昔4%位透析になっていたのが、2%くらいになって、非常に成績がよくなったのです。ところが、ALアミロイドーシスに関しては6%ぐらいで変わらないのです。ALアミロイドーシスを伴う骨髄腫は、アミロイドをどんどん作るタイプで、11;14転座が入ってくるのですが、こういうタイプは透析になる率が14%と高いのですね。では、同じ様に蛋白を作っているのに、折りたたみ異常のある危険な蛋白は作っていない多発性骨髄腫の場合はどうかというと、最初は腎機能が30点以下と透析に入らなければならないような状態の人でも、腎機能が良くなっている人が多く、基本的には透析にならないのですね。アミロイド蛋白が付くことによって、そこにいろいろなサイトカインが増えて、炎症反応を起こして腎臓を悪くしているらしいのです。ですから一刻も早く組織に付いたアミロイドを減らしてあげる事が大切で、多発性骨髄腫とそこが違う所だなと思います。

 

★ALアミロイドーシスの治療(現在の治療)

 現在日本で保険適用になっている治療は、メルファランとデキサメタゾン(MD療法)と自家末梢血幹細胞移植です。ただ多発性骨髄腫に非常に似ているので、ベルケイドやレブラミドを使ったりする事もあります。ボルテゾミブ(ベルケイド)やサリドマイドも保険適用になるといいと思うのですが、まだ保険適用になっておりません。

 治療成績は、MD療法や自家末梢血幹細胞移植で血液学的寛解は7割ぐらいありますが、臓器効果が4割ぐらいに留まっています。レブラミドやサリドマイド等でも似た様な成績が出ています。ベルケイドは成績が良いかというと、そうでもなく、血液学的寛解が7割、臓器効果4割でMD療法とあまり変わらない成績です。

 

★これからの治療の方向

 今までの治療方法は、移植が出来るか出来ないかによって、出来る人は移植をし、出来ない人はMD療法というのが基本的な治療法で、雪雲をとって雪が止めば、春が来て溶けると単純に考えていたのですが、どうもこの雪は氷河みたいなもので、なかなか溶けにくく、何年もかかります。血液学的な寛解は、今の治療でも何とか7割ぐらいは出来るのだけれども、最初から付着している不溶性アミロイドを溶かすのは難しく、実際に溶けて良くなった人(臓器効果)は5年くらいかけて4割から5割です。ところが、海外から「茶カテキンに効果がある」という報告がありまして、付いてしまってものを早く溶かす事を考えようと。そうすれば血液学的寛解、臓器寛解になって治るだろうということですね。その他にも、イキサゾミブ、抗アミロイド抗体とか、抗SAP抗体が、治療薬として脚光を浴びています。新しい4つの治療法が出て来たということです。

  【イキサゾミブ】

 今年FDAというアメリカの医薬品を承認する機構がALアミロイドーシスの画期的な治療薬(Breakthrough Therapy)として指定を出したのが、「イキサゾミブ」という薬です。これは、現在アメリカ、ヨーロッパでグローバルに治験(臨床第3相試験)が行われており、これを日本にも出来るだけ早くもってこようと思っています。 【SAP抗体】  SAP抗体というのは、アミロイドP成分に対する抗体で、一部の人には使えるだろうと言われています。ただすぐに日本で臨床研究が始まるとは限りません。

【NEOD001】

 これは、アルツハイマーとアミロイドだけを集中的に研究しているロサンゼルスの会社で、プロテナ社というところから出す治療薬です。血中に循環している可溶性のアミロイド蛋白を中和して、血中にあるアミロイドと臓器に付いたアミロイドの除去効果を持つモノクローナル抗体ということで、非常に期待されています。今、アメリカとヨーロッパで治験が実施されていまして、第3相までいっています。そのデータでは心臓の臓器効果が57%、腎臓にも67%、重篤な副作用が出た人はいないということで、今、日本の厚労省の監督しているところに申請していまして、一日も早くやりたいと思っております。勿論、化学療法と併用する訳ですけれども、是非日本でも出来るようにと交渉しているところです。

 

★まとめ

 私の話をまとめますと、本邦でのALアミロイドーシスの通常化学療法は、MD療法が基本で、そこに適応であれば、自家末梢血幹細胞移植、その他にもベルケイドやレナリドマイドなどを加えた多剤併用療法も保険外であるが行われている。これからの新規薬剤の有効性が報告され、非常に期待されている。これからは11;14転座が有るか無いかで、いろいろと治療法を考えていくということを検討しており、いろいろな意味で治療は多彩になり得るということです。  このように、治療は日々進歩しているので、一日一日大事にしていった方がいいですね。その中でやはり大事なのは減塩です。一日塩分6gを切るぐらいの食事。出来るだけ薄味に慣れるようにして、蛋白質もあまり摂り過ぎないように、しっかり管理して下さい。タンパク質を採るときの目安は、重さの割合がその蛋白の量と思って下さい。 魚30%(ただし干物は別)肉20%、卵15%ですから、魚は100g中30g、肉は100g中20gのタンパク質があると考えて、上手に採るようにして下さい。以上です。

 

 

(2)「診断技術としての皮下脂肪織生検、骨髄生検の重要性」    

    日赤医療センター 血液内科 宮崎寛至 先生

 ALアミロイドーシスは早期発見、早期治療が非常に大切です。遅れれば遅れるほど、治療が難しくなってきます。アミロイドーシスという病気は、治療しなければ、次から次へとアミロイドが臓器へ沈着していき、どんどん、どんどん心臓が悪くなる、それからどんどん尿タンパクが増えてくるということになります。特に心臓への沈着は進行すると命にかかわりますので、早く診断して早く治療する、これがなによりもこの疾患については大切だと思います。

 これ(スライド)はステージ別の生存曲線です。ここに4つのラインが出ていて、上から順番にステージ1、2、3、4となっています。例えばステージ1、あまり進行していない患者さんにつきましては、生存曲線が一番上になるのですが、5年以上たっても半分以上の人は大体何の問題も無く生きているといえます。2年間でも6割の人が生きています。勿論一番良いステージとはいえ疾患が疾患なので、本当に早く見つけて早く治療する事が大事です。現在はおそらくこの頃よりも成績がよくなっていると言えますが、一番悪いステージ4になってしまいますと、一年で3割、半年で50%、半分しか生存しないという結果になっています。また、ステージ3でも、やはり一年で半数の生存率になってしまいます。ですから、このステージが進まないうちに早めに治療する事が最も大切な事だと思います。ステージが進行していると当然予後が悪いです。ですから進行している場合は一日でも早い治療が必要です。日の単位でどんどん悪くなりますので一日でも早く診断して治療を始めることが大切です。

 では、その早期診断にはどうすればよいかということをこれからお話していきます。 診断には、必ず組織、身体の一部をどこか採らないといけません。アミロイドというのは採って顕微鏡で見てみないとわかりませんので、まずはそれをみていきます。そしてこの採った組織でどんなアミロイドが付いているか、これもわかります。一番多いのがAL型なのですが、この他にもトランスサイレチン型、あるいは膠原病で起こるもの等々ありますので、それを診断する為にも組織生験が必要になります。

 

★腹壁脂肪織吸引生験

 最も簡単なのが『腹壁脂肪織吸引生験』です。お腹のお臍のちょっと外側の下側に針を刺して、皮下脂肪を吸引していきます。1~2ccぐらいの脂肪を採るだけで、殆ど合併症はありません。また検査そのものは数分で終わります。身体の中で一番アミロイドの検出率の高いのがお腹なのですね。60%から80%の検出率です。どのように見えるかというと、コンゴーレッド染色、(アミロイド染色)で赤く染まる。そしてそれを偏光顕微鏡といって、ちょっと詳しい光の加減を変えるだけで、光って見えるのですね。 わかりにくので、拡大します。左がコンゴーレッド染色で赤いところがあります。それを偏光顕微鏡で見ると、黄緑色に光って見えます。アミロイドというのは、黄緑色に光るために、非常にわかりやすいのですね。本来、診断はそんなに難しくはありません。 そしてタイプもきちんと分ける事が可能です。ALアミロイドーシスの型はこのカッパとラムダのどちらかが必ず濃く染まります。写真の症例では、上よりも下の方が濃く染まっています。ゆえに、ラムダ型のALアミロイドーシスとこれで判断しています。

 

★骨髄検査

 それから骨髄検査、こちらは腹壁ほどではないのですが、非常に簡単に出来る検査です。骨髄検査は、AL型アミロイドーシスの場合は診断にほぼ必須です。骨髄にどのくらい悪いものがいるかわかります。腰のところに針を刺して検査をしていきます。痛みもほとんどありません。時間も10分くらいで終わります。 これはどういうふうに見えるのかということですが、コンゴーレッド染色で赤い所が出てくる、そして偏光顕微鏡でみると黄緑色に見える訳ですね。これによって骨髄でもアミロイドの沈着がすぐにわかります。同様にκ(カッパ)とλ(ラムダ)、こちらの染め分けも行うことが可能です。この症例では少しわかりにくいですが、λの方がやや濃く染まっています。アミロイドの量が多い場合は、中の方まで奇麗に染まらず、外側が染まっていくのですね。この症例ではλが優位に染まっているためにλ型というふうに診断します。

 

★早く見つけて早く治療する、それがすべて

 腹壁脂肪織吸引生検、それから骨髄検査、これは両方やっても20分かかりません。当院では受診したその日、あるいは入院したその日にも可能です。すぐに終わります。麻酔をしっかりすれば痛くないですね。腎生検を行うとなると、一日そのままつぶれてしまいます。また予定を組むのも大変です。心臓になると予定を組むのがもっと大変になります。診断を急ぐ場合は、すぐに出来る検査が最も望ましいと考えますので、当日受診が可能な腹壁脂肪織吸引生検と骨髄検査、これをまず行っていくことが大切だと思います。腹壁脂肪織吸引生検と骨髄検査では、アミロイドが90%以上の確立で確定します。腹壁で6割から8割、骨髄検査の場合は6割前後ですので、両方やると9割以上の方でアミロイドを検出します。これに関しましては、2ヶ月前の日本アミロイドーシス研究会で発表させて頂きました。また英文で世界の方にも報告させて頂いています。

 診断が確定したら、すぐに治療を始めることが大切です。早く見つけて早く治療する、これがこの疾患では現時点ではほぼすべてです。  当院の場合は、アミロイドーシスが疑われた方は、極力すぐに入院して頂いて、早ければ受診日当日にそのまま行い、遅くても入院中にはほぼ全員の方で腹壁脂肪織吸引検査と骨髄検査を行っています。結果が出るのは数日後です。この数日の間に心エコーあるいは尿検査等を行い、全身の評価等を行い、診断が確定次第、入院したまま直ちに治療を開始します。早い方では、入院したその週には治療を開始できます。以上です。


  

(3)「ALアミロイドーシスの自家末梢血幹細胞移植の有効性」

       日赤医療センター 血液内科 副部長 塚田信弘 先生

 

★全身性ALアミロイドーシスとは(病気のおさらい)

 「アミロイドーシス」といっても、いろいろな種類のアミロイドーシスがあり、ネットで検索するとたくさん他のアミロイドの記事も出てきて、混同する方もいらっしゃるかもしれませんので、もう一度皆さんの病気についておさらいしておきます。今日集まっていただいている患者さんの多くは「全身性アミロイドーシス」の中の「ALアミロイドーシス」で、家族性のアミロイドーシスと違い、基本的に遺伝はしません。

 本来、正常のタンパク質はきれいに折り畳まれた立体構造しているのですけれども、折りたたみの異常が起こって、このように線維を作ってしまい、これがいろいろな臓器や血管に沈着して症状を起こすというのがアミロイドーシスという病気です。

 ではどんな症状が起こるかというと、アライグマサインといって、目の周りのクマですね。かなり重症になってくるとこのような症状がでてきます。腎臓に症状が出るとネフローゼ症候群、これが進むと透析にもなってしまう。心臓に病変が出ると心不全の症状や不整脈を起こしてしまう。それからもう1つ大事なのが神経の障害で、起立性低血圧ですね。立ちくらみなども起こすようになってしまうという病気です。

 では、治療はどうするのかというと、今までの治療はとにかくこの異常な蛋白を作る細胞をやっつけることで、これに効く薬として、やはりMD療法が基本です。

 その他の薬剤では、多発性骨髄腫に使われる薬が一部使われる事もありますが、現時点ではこれらはALアミロイドーシスに対しては保険の適用がありません。保険適用が無いという事は、まだ本当の有効性や安全性が実は証明されていないということで、今後そういったデータが蓄積されてくれば、アミロイドーシスに対して使える様になってくる可能性もあります。

 

★自家末梢血幹細胞移植について

 これから説明していくのは、『自家末梢血幹細胞移植併用化学療法』という長い名前の治療で、簡単に言うと『自家移植』です。「移植」というと、怖い治療というイメージがあると思いますが、この治療で大事なことは、アルケランという薬をたくさん使う事なのです。アルケランはアミロイドを作る形質細胞には非常によく効きます。MD療法ですと、アルケランを内服3錠で6日間ぐらいしか飲めないのですけれど、自家移植では点滴で体表面積当たり200mgと大量に使います。そうすることで、一気にアミロイドを作る細胞を減らす事が出来るわけです。ところが、この薬を大量に使うと白血球が減る期間が非常に長くなってしまいます。そうすると、その間に感染を起こしたりして熱が出たりするので、予め採っておいた自分の幹細胞をここで入れます。そうすると白血球が少ない時間が短くなって、より安全に治療が出来るということです。新しい幹細胞を輸注して免疫系を1回リセットする事で、病気の治療に働くと考えられます。また、この治療は、もしかしたら臓器の再生に少し効果があるのかもしれないとも考えられていますが、そのことについては、まだはっきりと証明されてはいません。とにかく自家移植というのは、アルケランをたくさん使う事が治療の目的です。

 

★自家移植の適応条件(移植の出来る人と出来ない人がいます)

 この治療はどなたでも出来る訳ではなくて、安全に行える人を選ぶ必要があります。ひとつは全身状態が比較的良く、心不全の兆候が軽い方、アミロイドによる臓器障害が2臓器まで、年齢は70歳以下と一応考えています。腎臓がある程度保たれていて、心エコーで壁が15ミリ以下、心臓の動きがある程度良ければ、やはり移植は考えてもよいかと思います。欧米ではBNPの値をNP-proBNPというので見ることが多いのですけれども、当院での経験ではBNPの値が600ぐらいというのがひとつの境目ではないかと思います。もうひとつ大事な事は、低血圧ですね。低血圧で失神してしまうような場合は幹細胞を採る事自体も安全に行えない場合があるので、注意が必要になります。

 

★自家移植の治療成績

 我々のところ(日赤医療センター)で自家移植をされた患者さんは、今50名を超えています。生存率は、2006年からのデータで、2年で大体85%ぐらい、4年で74%ぐらいです。これは欧米の報告とあまり変わらない、比較的良好な成績だと思います。 ただ、残念ながら100日以内に亡くなってしまう方もいらっしゃいます。やはり心臓のもともと悪い方ですと、どうしても心不全の悪化で命が奪われてしまう場合もありますし、感染症を起こすと、それが重篤化してしまう傾向になります。

 これは、先ほどの生存曲線を『心臓の病変がある人と無い人』で比べたものと、『BNPの値』で比べたものですが、心臓に病変が無い方に関してはかなり安全に移植ができるだろうと考えられています。ただ心臓に病変があっても長期間お元気にしていらっしゃる方もいらっしゃいますので、そこをどう見極めるかが重要になってきます。そのための1つの目安としてこのBNPという数値があるわけですが、500未満の方は、まあOKです。ただ600という数字になってくとかなり厳しいということで、600以下ということが1つの目安になると思います。もう1つは心エコー(心臓の超音波検査)で壁の厚さが厚いと成績が悪いといえます。心室の壁が12ミリより薄い患者さんに関しては、まあまあの生存です。

 これは、使うアルケランというお薬の量をもとに治療成績をみていますが、量にあまり関係がないということがわかります。どういう意味かというと、あまり心臓の状態が良くない患者さんにはこのアルケランの量を調節する事で、乗り切る事ができるということです。ただ、たくさん使える患者さんの方がやはり成績はいいということになります。また、「2006年から2010年まで」と「それ以降」の治療成績を比べてみますと、大きな差はなく、最近は適応条件をしっかり判断してやっているのですけれども、それでもなかなか100%という成績はあげられていません。これから我々がどんどん経験値を増していって、さらに的確に患者さんの適応の有無を判断して、やっていくことが大事と考えています。  効果に関しては、半分ぐらいの方で血液学的寛解が得られています。アルブミンが3g未満であった患者さんのうち7割ぐらいが3gを超えていきます。そうするとかなり浮腫が軽くなります。心臓では、自家移植前に100以上BNPがあった方のうち、6割ぐらいの方が下がっているということで、心臓にも効果が得られるし、腎臓にはもっと高い効果が得られるということが判っています。

 

★ALアミロイドーシスにおける自家移植の副作用の特徴

 ここでは自家移植での副作用として、どんな症状が、どんな時期に、どんなふうに出たのかということを解析しています。これは今年になって解析したものですが、ALアミロイドーシスの患者さんの方が、多発性骨髄腫の患者さんの自家移植の場合に比べて消化管の粘膜の症状ですとか、むくみが出やすいという傾向があります。体重の変動が非常に大きいです。もちろん、何事もなく経過する患者さんも多いのですが、「生着」といって白血球が増える時期に、体重が10%以上増えてしまう患者さんが一部にいらっしゃいます。こういう症状が多発性骨髄腫の移植の場合よりも多い傾向があります。もうひとつの特徴は、血圧の変動が起こりやすいことです。収縮血圧(上の血圧)が、生着の時期に下がる傾向が多くて、平均で100を切っていますし、時に失神してしまう方もいらっしゃるということで、これもアミロイドーシスの自家移植の1つの特徴かなということで、こういうところに注意して移植の患者さんをみています。

★自家移植のまとめ

 自家移植を行なうと、比較的早く効果が得られます。安全に行う為には、先ほど申しました基準を満たしている事が望ましいということ、有害事象が他の疾患に対する自家移植よりも起きやすいということがわかってきていますので、そういったことに注意して移植を行っています。自家移植が行えない場合でも、MD療法を粘り強く10コースくらい繰り返していくうちに、徐々に徐々に良くなっている場合も少なくないです。自家移植よりもMD療法の方が安全に行えます。また自家移植をやっても充分な効果が得られない場合もあり、その場合の治療については、今後我々が考えていかなければならない課題だと思っています。以上です。

 

 

(4)「茶カテキン自主研究の進展」

       日赤医療センター 血液内科 飯塚聡介 先生

 

★アミロイド蛋白に毒性?

 アミロイドーシスは異常な蛋白が変性した結果、アミロイド線維となって体中に沈着して臓器障害を起こす病気です。今まではアミロイドが沈着することによって臓器障害を起こすと考えられていました。今日はそれだけではないという話を少ししたいと思います。

 これは、先ほど宮崎先生のお話でも出たステージ別の生存曲線です。やはり心臓病変がある程、治療成績が悪いということのほかに、もう1つ、フリーライトチェーンが少ない人は、治療成績が良く、多い人は治療成績が悪いということも示しています。フリーライトチェーンの量が多いか少ないかによって、予後が決まってきているかもしれないということから、アミロイドーシスを引き起こすフリーライトチェーンに毒性があるのではないかという話をしたいと思います。  異常なフリーライトチェーンが産生されるようになってまもなく、まだ臓器に沈着していないような段階であっても、臓器障害が起こって、たとえば心不全になる、腎不全になるという患者さんがいるということが最近わかってきました。  これはBloodという医学雑誌に投稿された論文ですが、ここに写っているのは線虫です。線虫は、口がポンプの働きになっていて、進化の過程で人間の心臓を模倣する実験動物といわれています。この線虫にフリーライトチェーンを投与すると細胞が死にます。心筋の中のミトコンドリアが酸化ストレスを引き起こして、最終的に細胞が死ぬと言われています。これは、線虫にいろいろな蛋白を投与した実験結果を示したものですが、心臓を障害するフリーライトチェーン(アミロイド蛋白)を投与すると、即座にポンプの機能が障害されます。しかし多発性骨髄腫のタンパク質を投与してもポンプ機能は障害されないし、腎臓を障害するALアミロイド蛋白を投与してもやはり障害されない。他のタンパク質、あるいは生理食塩水等では何にも起きないのに、心筋障害を引き起こす蛋白を投与すると即、心機能が落ちます。だから、その蛋白そのものに毒性があって、臓器障害を引き起こすのではないかと最近は言われるようになりました。つまりこれは臓器に沈着するだけがアミロイドの病態ではないと言うふうに思います。これは哺乳類、マウスのモデルでも基本的には同じです。ヒトの場合でも、フリーライトチェーンが高いとBNPが高く、フリーライトチェーンが低いとBNPも低い傾向にあります。ですから、おそらくヒトにも当てはまるのではないかということです。

 

★線虫における緑茶カテキン研究

 ところで、海外の研究から緑茶のカテキンがアミロイドーシスの治療薬となる可能性が報告されました。線虫にフリーライトチェーンを投与して、かつカテキンを投与したらどうなのかということをやったグループがあります。徐々にカテキンを増やしていくと、ポンプの機能が回復していくことがわかりました。どういう機序で緑茶に効果があるのかということなのですが、この中の、ひらがなの、「の」の字の反対みたいなものがアミロイドの原因タンパク質だと思って下さい。これが変性すると、この「βコンフォーマー」というのになって、これが連なって、ゆくゆくはアミロイド蛋白なるということなのですね。これにEGCG(カテキンの主成分)を加えると、ここにピタッと糊付けするようにくっ付いて、1つが2つに、2つが4つになって、こういうような丸まった構造になるので、アミロイド線維にはならないのではないかという説があります。(アミロイドは棒状になって臓器に付く)

 このように、虫では、このような結果が出ていますけれど、まだ人に対するデータは全くありません。これを日本のある先生がAL型ではなくて、トランスサイレチン型(TTR型)アミロイド原因蛋白で調べたのですが、アミロイドの蛋白とお茶の主成分であるEGCGというのを1:1で混ぜると丸まるのがわかりました。10倍いれるともっと丸まります。TTR型アミロイドでは、実際にEGCGカテキンの成分がくっ付くという事がわかりました。ですから、アミロイドの原因蛋白質にカテキンがくっついて、アミロイドへの変性を防ぐという説はTTR型では、たぶん一部正しいといえます。でも、ALアミロイドではこういうことが起こるのかどうかというのはわかっていないのですね。それで私達が調べる事にしました。

 

★塩基構造の多様性が問題

 これはALアミロイドーシスの蛋白を作るアミノ酸の配列ですが、同じALアミロイドーシスの患者さんであっても、それぞれの患者さんごとにかなり蛋白の構造が異なるという事がわかっています。この『異なる形』というのが問題で、TTR型のアミロイドーシスは、この『鍵となる場所』にカテキンがくっ付いて、アミロイドへの変性を防いでいたのですけれども、はたしてALアミロイドーシスの場合にそういう鍵となる場所にくっ付くことが出来るのかというのは、まだわかっていません。ほんの少し構造が異なるだけで、カテキンがくっ付けなくなるのですね。また同じアミロイドーシスであっても患者さん一人一人原因となっているタンパク質の立体構造がわずかに違うために、カテキンがくっついて効く人と、くっつけなくて効かない人がいるわけです。

 

★カテキンの研究のきっかけ

 そもそもカテキンの研究は、2007年までありませんでした。2007年になって、ある医師がALアミロイドーシスになり、自分自身でいろいろな健康療法をためすうちにカテキンに出会い、カテキンを大量に飲んだら具合が良くなったので、もしかしたらカテキンが効くのではないかということをBloodという医学雑誌に報告しました。それを別のドイツのグループが実際に患者さんで試し、投与していない群の患者さんの心臓の壁の厚みは全然変わらなかったけれども、カテキンを飲んだ群では心臓の厚みが下がったという結果が報告されました。

 

★当センターで実施されているカテキン臨床研究

 私達は、伊藤園さんにご協力いただいて、実際にカテキンを製剤化いたしました。 1回5カプセル、1日3回、現在57名の患者さんにご協力いただいています。 心臓に病気がある人が24人、腎臓の方が29人という内訳になっています。それをランダム化して、飲むグループと飲まないグループに分け、3人に1人の者さんに飲んで頂いています。カテキンの研究は、イタリア、ドイツなどでもさかんに行なわれていて、まだ結果は出ていませんが、世界で注目され期待されています。

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