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・第8回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2018.12.22)
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・第7回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2018.12.24)
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・第6回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2017.12.31)
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「アミロイドーシスって何だろう? アミロイドーシスの診断と治療」
信州大学 脳神経内科・リューマチ膠原病内科 関島 良樹 先生
★はじめに
私は信州大学の脳神経内科・リューマチ膠原病内科というところで、神経を中心としたアミロイドーシス全体の研究、特にATTRといいまして遺伝性アミロイドーシスとか老人性アミロイドーシスとか言われるアミロイドーシスを中心に研究をしております。私はALの専門ではありませんので、今日は「アミロイドーシスとは何だろう」という、アミロイドーシスの基礎的なお話をさせていただこうと思います。
★アミロイドはタンパク質のゴミ!
私が患者さんにお話する時には、「アミロイドはタンパク質のゴミみたいなものですよ」とお話しています。タンパク質というのは、細胞の中で作られた時には一枚の紙のようなものなのですが、それが細胞の中でそのタンパク質特有の形に折り畳まれるのですね。ちょうど日本の折り紙の様なものに例えられますが、この折りたたまれた形によってタンパク質特有の機能を発揮するということで身体は働いているのです。ところが、何らかの拍子に、この折りたたみが崩れてしまうことがありまして、正確な折りたたみが崩れて固まりを作り、身体に溜ったものがアミロイドだというふうに想像していただけたらわかりやすいと思います。では実際にどんなふうに身体の中でアミロイドが出来るかということを考えてみたいと思います。私達の身体をひとつの家に例えますと、家の中で当然ゴミが出てきます。ところが家中がゴミで一杯になったということは普通ありませんよね。それは掃除をしてゴミを片付けているからです。同じように私達の身体でもいろいろなタンパク質を作っているので、当然古くなったタンパク質などがゴミになって出てきます。ALアミロイドーシスでいいますと免疫グロブリンの軽鎖がゴミになって出ていると思うのですが、それを通常は身体の中で掃除しているので、患者さん以外の方ではアミロイドーシスになることはないということかと思います。
★アミロイドが体内にたまる3つの理由
では、どういう時にアミロイドーシスになるのかということですが、1つ目の理由としては、ゴミの量が多いということですね。ゴミの量がものすごく多いと、同じように片付けていても、かたづけきれずにゴミが残ってしまいます。ALアミロイドーシスでいえば、骨髄の形質細胞が非常に増えて、軽鎖(ライトチェーン)を沢山作ってしまいますので、それを処理しきれなくなってアミロイドーシスになってくると考えられます。2つ目の原因として、量がそんなに多いわけではないのだけれども、片付けにくいゴミ、なかなか処理しきれないゴミというのもあると思うのです。身体の中のアミロイドの元になり易いタンパク質、たちの悪いタンパク質といってもいいかもしれません。こういったものも、やはりアミロイドの原因になります。私の専門としています遺伝性のアミロイドーシスなどでは、量が多いわけではないのですけれども、遺伝子に変化があるためにアミロイドを作り易くなって処理しにくくなり、アミロイドになります。さらにまだ原因がありまして、ゴミの量は普通であっても掃除する能力が落ちると、やはりゴミがたまってしまいますね。身体の中でアミロイドを掃除する機能が老化などで低下すると、やはりアミロイドーシスになりやすくなります。老人性アミロイドーシスなどは、こういった事が関係しているのではないかと思われます。脳アミロイドーシスであるアルツハイマー病というものもやはり老化が関係していまして、脳のアミロイドを除去する能力が減ってきて認知症になるのではないかと考えられています。先ほどALアミロイドーシスのみなさんはゴミの量が多いとお話しましたが、ただ単に多いだけではアミロイドーシスにならないのです。アミロイドーシス以外の方でもM蛋白血症と言いまして、身体の中に軽鎖がたくさんある方が大勢いらっしゃるのですけれども、アミロイドーシスになる方はその中のほんの一部です。ですから、『多い』のに加えて、『アミロイドになり易い免疫グロブリン軽鎖が増えている』という事が原因になると思います。そして『処理する能力も衰えている』ので、身体に溜ってきているということがいえるかと思います。このように考えると、どのように治療したら良いかということがわかってくると思うのですが、ALアミロイドーシスは、免疫グロブリンの軽鎖(ゴミ)の量が多いことやアミロイドになり易い(ゴミになりやすい)性質の軽鎖が産生されることが原因ですので、ほとんどの治療はこのゴミ(免疫グロブリン軽鎖)を作っている形質細胞を攻撃する治療が主体となっていると思います。ただ最近はアミロイドを掃除する能力を高めるという治療(抗体療法)の治験が海外で始まっていて非常によい成績を出しています。
★アミロイド蛋白の特性(コンゴーレッド染色で染まる物質)
アミロイドという言葉の語源は、ドイツの非常に有名な病理学者であるウイルヒョウ先生という方が、臓器に沈着する奇妙な物質を見つけて、その性質が澱粉と非常に似た様な性質を持っているということでアミロイド(ラテン語のAmy=澱粉、oild=似ているからつくった造語)と命名したとされています。先ほど、アミロイドはタンパク質のゴミみたいな存在と理解して欲しいと言いましたけれども、もう少し専門的に見てみますと、私達の身体の中には多くのタンパク質が血液中や組織中に溶けて存在しています。タンパク質というのは、このように一本の紐がグルグルグルっと折りたたまれて機能しています。血液中や身体の中に溶けているタンパク質はベトベトした部分を内部に閉じ込めて、表面は非常に溶け易い状態になっています。それが遺伝子の変化やタンパク質が古くなるなど、いろいろな原因で少し折り畳みが緩くなることがあります。そうすると中に隠れていたくっ付きやすい部分が表面に出てきて、お互いがくっ付いて、アミロイドになるということがわかってきました。この写真は手根管症候群といって手首にアミロイドが着いた患者さんの組織なのですけれども、これをコンゴーレッド染色という特別な染色をしますと、このように赤く染まってきます。『アミロイドはコンゴーレッド染色で染まる物質』と定義されています。普通に見れば赤く、偏光という光を当てると、このようにアップルグリーン色を呈します。コンゴーレッド染色で染まらないとアミロイドではないという事ですね。
★アミロイドーシスの種類
アミロイドにもたくさんの種類があります。これまでに36種類くらいのアミロイドが報告されています。どのように分類するかというと、アミロイドの元になるタンパク質で分類するというのが基本です。アミロイドはタンパク質のゴミという話をしましたが、ゴミの種類によって分類するということが基本となっています。みなさんは、全身性のALアミロイドーシス、別名、原発性アミロイドーシスといわれることもありますが、元になるタンパク質は免疫グロブリンの軽鎖で、原因は骨髄の形質細胞の異常と考えられています。治療は形質細胞を標的にした化学療法が主体となります。一方ATTRアミロイドーシスは元になるタンパク質はトランスサイレチン(TTR)で、遺伝性と老人性とがあるのですけれども、遺伝性のアミロイドーシスの場合には原因は遺伝子の変化です。治療法は肝移植とか、最近では飲み薬とか点滴の治療なども開発されてきました。老人性アミロイドーシスのほうは、原因は老化で、現時点では確立した治療がないのですけれども、今、有望な治験が進行しています。続発性のアミロイドーシスでは、元になるタンパク質は血清アミロイドAというもので、これは炎症があると産生されるタンパク質です。炎症が長く続いているとAAアミロイドーシスになりやすく、昔は結核とか感染症が主な原因だったのですが、今は殆どが難治性のリウマチの方ですので、治療はリウマチに対する治療が主流になります。Aβ2Mアミロイドーシスというのは別名、透析アミロイドーシスとも呼ばれ、透析が原因で起こります。腎臓が悪い方が長期間透析していると、この「ベータ2ミクログロブリン」というタンパク質が透析膜で除去されないので、血液の中で量が増えてしまって、このアミロイドーシスになり易いということが知られています。これは透析膜を工夫することで予防が出来ます。このように一括りにアミロイドーシスといいましても、病型が違うと原因も治療も全く異なるということで、原因を確定する事が非常に大事になってきます。的確な治療には正確な診断が重要であるということがいえるかと思います。
★免疫染色によるアミロイドーシスの病型診断
そこで、アミロイドーシスの診断について話をしたいと思います。
まず、アミロイドーシスの診断の基本は、症状とか検査所見等で『アミロイドーシスを疑う』という事が第1段階です。疑わないとなかなか診断にたどりつけないですね。例えば、手根管症候群はアミロイドーシスで起こり易い症状の1つです。また足の痺れとか筋力低下とかは遺伝性アミロイドーシスなどで起こってきやすい症状です。心臓の症状もいろいろな全身性のアミロイドーシスで起こってきます。ALアミロイドーシスですと、タンパク尿や巨舌、目の周りにアザが出来るとか、肩の関節にアミロイドが着いてフットボールの選手みたいになってくるとか特徴的な症状もあるのですが、他の病気でもしばしば認められる症状が多くて他の病気と区別がつきにくいということがあります。また、実際に治療する専門家と患者さんが受診する診療科が違うという問題もあります。例えばALアミロイドーシスの場合、血液内科の先生はALアミロイドーシスに詳しいのですけれども、多くの方は腎臓内科とか消化器内科あるいは心臓とか神経とか、血液内科以外のところに症状を訴えて受診しますので、なかなかアミロイドーシスの診断にたどりつきにくいという問題点があるかと思います。生検でコンゴーレッド染色を行なって赤く染まればアミロイドがあるとわかるわけですが、これは比較的大きな病院であれば出来る検査です。この検査で陽性であればとアミロイドーシスであるということはわかりますが、どの病型のアミロイドかはこの検査だけではわからないのです。そこでその次の段階として『免疫染色』という方法を使ってアミロイドの元になっている蛋白を特定します。具体的には抗体というものを使って、例えばATTRというゴミだけを認識するような抗体を使って、組織を染めると染まってくれば、ATTRアミロイドーシスだと診断が付く訳です。免疫染色というのは、どこの病院でもできるという訳ではなくて、うまく染色ができないことが多く、出来る施設が非常に限られていまして、それでも診断がつかない場合には、さらに詳しい検査をしなくてはなりません。日本で最終的にどんなアミロイドーシスでも診断できるのは、信州大学と熊本大学ぐらいの施設に限られます。今、私達のアミロイドーシスの研究班で、アミロイドーシスの病型を正確に診断できる施設をもっと増やしていこうという取り組みを行なっているところです。私達は信州大学の第3内科の神経内科なのですが、アミロイドーシスの診断サービスというのを無料で行なっておりまして、病型診断、遺伝子診断、血液中や組織中のタンパク質の解析、治療法の相談等、年間300件以上相談を受けています。
★病型診断の難しい症例、誤診されている可能性も
こちらはイギリスからの報告ですが、2002年にイギリスで350名のALアミロイドーシスと診断された家族歴のないアミロイドーシスの患者さんを対象に遺伝性のアミロイドーシスの原因となる遺伝子を調べてみたら、なんと34名(9.7%)に遺伝性の変異を認めた(AFib(フィブリノーゲン)型18名、ATTR型13名)ということで、これは世界的にも遺伝性アミロイドーシスがALと誤診されていることが少なからず在るということだと思うのです。日本でもこれまで無いと思われていた遺伝性AFibアミロドーシスが信州大学で見つかりました(※1)ので、今でも多分まだ診断されていないALに似ている遺伝性アミロイドーシスの患者さんというのがいらっしゃるのではないかなと思います。このような診断が難しいケース、ALに似ている他の新しいタイプのアミロイドーシスもあります。免疫染色はやり慣れていないと、陰性なのに陽性になってしまったり、逆に陽性なのに見逃されるという事が多々あります。(※1 実際に病型診断の難しいかった2症例:その中の1例はALと言われていた患者さんが、「遺伝性のAFib(フィブリノーゲン型)」であると分った「日本初」の症例)
★アミロイドペットの開発
生検というのは組織のごく一部しか採れないので、全身のどこに、どれくらいアミロイドが着いているのかというのを視覚的にとらえるというのはなかなか難しいという問題点があったのですが、私達は『アミロイドPET』という『アミロイドだけを染められるペット検査』を開発しました。まだ実験段階なのですが、早期診断や治療効果判定を全身まとめて検査出来るという事で、将来優良な検査になるのではないかと研究を行っています。
★ALアミロイドーシスの治療のあゆみ
最後にアミロイドーシスの治療についてお話しします。もうご存知のようにALアミロイドーシスは骨髄の異常な形質細胞から作られている免疫グロブリンの軽鎖が全身の臓器に沈着して臓器障害を起こすという病気で、年間の発症率が100万人に対して5〜6名、日本中で年間500人くらい新しい患者さんが発症しているということで、全身性アミロイドーシスの中で一番多いということです。ALアミロイドーシスの中でも分類する事が可能で、ひとつは全身性と限局性に分けられ、全身性が圧倒的に多いです。限局性というのは一臓器に出てくるもので、比較的に稀で、あまり強い化学療法が必要ないということが殆どです。あとは多発性骨髄腫に合併する場合と多発性骨髄腫でない形質細胞の異常(MGUS)に合併するものがありまして、多くは骨髄腫の合併のない、いわゆる原発性のALアミロイドーシスの患者さんが多いと思います。 昔はあまり良い治療がなかったのですが、最初に有効な治療が報告されたのが1972年頃だと思います。「メルファラン+プレドニン」という化学療法が始めて導入されました。反応する患者さんが限られていまして、診断されてから予後は1年〜1年半というのが、しばらく続いておりましたが、1998年に大量メルファランと末梢血幹細胞移植というのが導入されまして、患者さんの予後が劇的に改善されました。ただこの治療は状態がよくないと受けられませんので、受けられない方(移植適用外)が多いということや治療関連死(治療による死亡)という問題が残されています。最近は2007年頃から「ボルテゾミブ」とか「レナリドマイド」とかいうような新規の化学療法がどんどん発達してきまして、患者さんの治療選択肢が増え、予後がさらに改善されてきています。ALアミロイドーシスの治療の基本は、異常な形質細胞を標的にした化学療法ですが、最近、「抗体治療」という溜ったアミロイドを掃除する力を高めようという治療も出て来ております。
★信州大学におけるアミロイドーシスの治療
これは信州大学の治療経験を示したものです。私達は血液内科ではありませんので、日赤医療センターの治療と方針が違うところもあるかと思います。これは2011年以前のデータですが、「大量メルファラン+末梢血幹細胞移植」実施出来た方はが、出来なかった方よりも予後が非常に良いことがわかります。一方、移植治療の出来ない方はなかなか予後が厳しいという状況だったのですが、2012年頃から新規薬剤のボルテゾミブを導入するようにしましたら、非常に経過がよくて、生命予後に関しては移植をした方達とほとんど引けを取らないということと、私達の場合は血液内科専門ではないので、あまり移植に慣れていないということもありまして、最近ではボルテゾミブ+デキサメタゾン療法を第一選択としているというのが現状です。世界的に見ても、アメリカでは移植を第一選択で行なっている施設が圧倒的に多いと思いますし、日本でも移植に慣れていらっしゃる血液内科専門の施設では移植を第一選択としている施設も多いと思いますが、私達のように血液内科専門でないところでは、こういった新規薬剤の方が比較的やりやすいということで使っており、かなり良い予後が得られております。 また、今後期待されるALアミロイドーシスの治療としましては、「エキサゾミブ」というボルテゾミブと同じプロテアソーム阻害薬というのに分類される飲み薬、それから「ダラツムマブ」というCD38という形質細胞の目印をピンポイントに攻撃することができる薬、次に「NEOD001」という、これまでの治療と全く異なった治療機序で溜ったゴミを掃除するような抗体薬があり、これらは非常に期待されている薬ではないかと思っております。
★遺伝性ATTRアミロイドーシス
最後に私が専門にしております遺伝性アミロイドーシスについて、少しだけご紹介したいと思います。この病気はTTRという名前の遺伝子変化がある遺伝病で、親から子に2分の1の確率で遺伝するアミロイドーシスです。しびれや麻痺などの末梢神経の症状、吐気や立ちくらみなどの自律神経の症状、動悸や息切れなどの心臓の障害が主な症状です。ALの方でも同じ様な症状が出る事がありますが、遺伝性TTRアミロイドーシスはALアミロイドーシスに比べると経過は少しゆっくりです。しかし、進行性の経過をとりまして、大体10年か15年で亡くなる難病であると考えられておりました。ところが1990年代に、肝移植の有効性というのがわかりまして、1993年に日本で始めてのアミロイドーシスの生体肝移植を信州大学で行ないました。どうして肝移植が有効かといいますと、アミロイドの元になるTTRというタンパク質を作っているのが肝臓なので、肝臓をとりかえてあげることによって、アミロイドの元がなくなって病気の進行を止められるということです。これでかなり予後がよくなりまして、最長で27年生きている患者さんがいらっしゃいます。ただし肝移植も出来る方が限られていまして、大体2割ぐらいしかできません。そこで誰でも出来る治療が必要だということで、アミロイドの元になる蛋白を安定化する飲み薬を開発しました。TTRという原因蛋白は、普段は4量体で生体内に存在しています。これがバラバラになり、形が変わってアミロイドになるということがわかりましたので、この4量体にくっついて、タンパク質本来の形がバラバラにくずれないようにする飲み薬を開発しまして、治験で有効性が証明され、現在、世界30カ国で使われています。「ビンダゲル」という名前で、ほとんど副作用がなくて良いお薬です。ただ、これでだけでは進行を半分以下に抑えるくらいで、完全に進行を止める事は出来ないということで、まだまださらに新しい治療が必要な状況です。そこで、さらに「遺伝子治療」という注射による治療も開発中です。これはアメリカのベンチャー企業がつくった薬ですが、世界中の研究者が協力して国際治験をやっていまして、その結果がつい1ヶ月くらい前に出ました。非常によく効くということがわかり、これは来年くらいから認可されるのはないかと考えられています。遺伝子治療というのはどんな治療かと言いますと、「siRNA」という物質を使って遺伝子(設計図)からタンパク質(製品)を作るところを止めてしまうという治療です。アミロイドの元になるタンパク質がなくなるので、アミロイドも作られないという理屈です。遺伝子治療といっても遺伝子を組み換えるとかいうことではないんです。老人性アミロイドーシスのほうには現在あまり良い医療がないのですが、遺伝性アミロイドーシスと同じ様に遺伝子治療とかTTR四量体を安定化する薬が老人性のアミロイドーシスにも効くのではないかということで、治験も始まっています。
★アミロイドーシス研究会
私達は平成23年にアミロイドーシス研究会というのを立ち上げました。なかなか治りにくい病気だということと、お医者さんでアミロイドーシスを理解していない方が圧倒的に多いので、日本中のお医者さんへの啓発、アミロイドーシスの原因の解明や治療法の開発、患者さんへの情報提供ということを目的にこの研究会を作りまして、こちらの鈴木先生にも幹事になっていただいてご協力をいただいております。アミロイドーシス研究会のHPからお問い合わせをして頂だければ、お答えするようなサービスもしておりますし、会員は研究者や医療従事者になるのですが、年に一回の研究会には患者さんも参加して聴講する事も可能になっております。
以前はアミロイドーシスというのは、絶対に溶けないタンパク質の固まりと言われていたのですけれども、ほとんどアミロイドーシスは早期診断、治療する事によって、予後がよくなっております。ただ診断が遅くなってしまうと手がつけられないので、早期診断が非常に大事な事かなと思っております。
「治験の進捗状況について」
日赤医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター長 鈴木 憲史 先生
★はじめに
今までのお話であったように、ALアミロイドーシスに対するいろいろな治療や戦略は出ているのですけれど、間に合わない場合もあり、とにかく早期診断、早期治療がなによりも大事ですね。心不全があったら必ずフリーライトチェーンを調べる、手根幹症候群があったら、とりあえずアミロイドーシスがあるかもしれないと疑う、それから脊椎管狭窄症、これも結構くせもので、年をとったら皆なると思ったら大間違いで、その中にアミロイドーシスがいることがあるのです。先ほどもお話があったように、医者の半分は、なかなかこの病気を思い起こせないので、みんなで啓蒙していくことが大事ですね。関島先生はアミロイドーシス研究において日本では第一人者ですから、困ったことがあったら、とにかく信州大学か熊本大学で確定診断をするということが大事で、早期に診断して、MD療法や自家移植治療で血中のフリーライトチェーンの差をなくして正常にすることです。そして最近は臓器に着いている不溶性アミロイド蛋白を溶かそうという試みがあるということで、新規薬剤にはどんなものがあるか、現状で今使えそうなものをお話したいと思います。
★ 今後期待される新規治療薬NEOD001
これはプロテナ社から出している蛋白を溶かす抗体で、血中に存在している蛋白の中和効果を持ち、臓器に沈着しているアミロイドの除去効果もあるのではないかということで、世界中で治験が遂行されています。ALアミロイド特有の他とは違う構造を認識して、そこにくっ付いて、製造される細胞を食べてくれるというものです。使用する量を少しずつ増やしていって、どれくらいが良い量なのかというのが検討されています。これまでの臨床試験で、心臓や腎臓の悪い数値が下がっていくという方向ではあるのですが、効く人と効かない人とがあり、3割がほとんど効かないという報告が昨年のメイヨークリニックから出ています。効く人と効かない人を分けなければいけないですが、約6割の人に機能改善が見られるということで、何とか早く日本に導入したいと思っていますが、まだすぐには治験が始まらないと思われます。
★ダラツムマブの治験が国内でも始まる予定です。
ダラツムマブというのはCD38抗体で、アミロイド蛋白をつくる形質細胞を急速に抑えます。ベルケイドは自律神経などへの影響など問題点があるのですが、この薬の方がベルケイドより副作用は少ないかもしれないと思われ、期待できる薬ではないかと思います。 2017年12月の米国血液学会でも有効性が示されております。
★イキサゾミブの第3相治験も始っています
先月からイキサゾミブという薬の国際第3相試験が始まりました。第1相と第2相治験の結果で、臓器障害が56%改善、血液学的寛解、臓器寛解共にもよく効くということで期待されています。 トルマリンAL1( TOURMALINE-AL1 : 再発・難治性のALアミロイドーシスを対象に本薬およびデキサメタゾンの併用と医師が選択したレジメンでの治療を比較 ) これは、アメリカで第1相と第2相治験をやって、再発・難治性のALアミロイドーシス症例の50%ぐらいの人が良くなったという結果をうけて、今度は日本も含めて第3相治験が行なわれるのですが、「エキサゾミブとデキサメタゾン」を使った群と、それ以外の「メルファラン+デキサメタゾン」、「エンドキサン+デキサメタゾン」、「サリドマイド+デキサメタゾン」、あるいは「レナリドマイド+デキサメタゾン」の群と比べて、どのくらいの有効性があるか調べているところなのです。これは先週アメリカから送られてきたスライドですが、アメリカで41例、日本では先月から当院で治験が始まったところです。まだ現在は3例ですが、とりあえず国内20例くらいで実績を出して使えるようにしたいと思います。ただこの治験に入るには基準がありまして、フリーライトチェーンの差(多い方から少ない方を引く)が50以上あるということが基準なのですね。また心室中隔の壁の厚さが12ミリを超えている人、蛋白尿が0.5以上出ている人、この3つが主な基準です。それ以外にも細かく条件があります。PSで動けない人はやはり難しいとか、黄疸が強かったらだめです。それから肝臓の数値が5倍以上あったらダメです。肝機能、腎機能が悪い人もダメですね。心不全のある人はダメだし、骨髄腫のある人もダメだと。比較的元気な人で治験をやって、来年のうちに結果を出して保険でも使えるようにもっていこうとやっているところです。
★ 緑茶カテキンの効果について
茶カテキンについては特別ここで公表するほどのものではないのですが、茶カテキンで心臓の中隔の壁が薄くなったとか、あるいは心臓が楽になったというドイツからの報告があって、当院の患者さんでそれをやってみました。その結果、心臓ではあまり効果が得られなかったものの、腎臓には若干良いのではないかと昨年の患者の会でも報告させていただきましたが、緑茶に含まれるカテキンの効果ということでは、『ある程度、腎臓の蛋白を減らす作用がある』ということでまとめさせていただきました。これは熊本大学の先生からいただいたスライドですけれども、緑茶に含まれるカテキンにはアミロイド形成抑制効果が認められるということで、予防という意味ではお茶が良いのではないかと思います。みなさんもある程度の日本茶で水分を摂った方が良いですね。老化するとやはり細胞内にゴミがたまるので、溜ったゴミを水で洗い流すのも大事です。塩分は控えた方がいいです。 2016年の12月8日、サンディエゴで開かれた米国血液学会でアミロイドーシスのシンポジウムがありました。学会メイン会場でのアミロイドーシスシンポジウムはおそらく初めてではないかと思います。これは世界でもこの病気が注目されてきているということではないかなと思います。 このように進歩していますので、これからはより楽に治療が出来るようになると思いますから、日々の養生が大事です。塩分制限とか、少しはお茶も飲んで、ほがらかにやっていったら良いと思います。以上です。
「日赤医療センターにおける自家末梢血幹細胞移植の効果について」
日赤医療センター 血液内科 岡塚 貴世志 先生
本日は、ALアミロイドーシスに対する『大量メルファランと自家末梢血幹細胞移植の効果』について日赤医療センターの過去10年程度の治療効果についての報告をいたします。これについては、当院の塚田先生が英文誌で2016年に2013年までの症例40例について報告されておりますが、その後2014年以降の症例も追加致しまして、今回は計63例で追加解析を行っております。
★移植適用の判定基準
この移植という治療は誰でも行なえる訳ではありません。当院で移植を行なっている移植適用を解説しますと、まずは年齢で、一般的には70歳以下、2番目BNPが600以下、これは心不全のマーカーになります。次にパフォーマンスステータス、これはどのくらい元気にご自宅で動けるかという指標になります。パフォーマンスステータスは、「0」が一番良いということですなのですが、「1」というのがだいたい軽い家事もしくは事務作業が行なえる程度になります。次にNIHAというのは、心不全の重症度を表しますが「2」以下、これはどういうことかと申しますと、軽い動作では問題ないが階段等では苦しくなる、このようなお元気な方で移植適用となります。その他、腎機能はクレアチニンクレアランスが50以上(正常は60〜80)、IVST(心室中隔の厚さ)が通常15ミリ以下(正常値は11ミリ以下)、BMPも0.6以下を目安にしております。ただ、これをすべて満たさないと移植を行なえないというわけではなく、患者さんの状態をみながら移植が行なえるかを慎重に判断して行なっております。
★治療効果の判定基準
では、この末梢血幹細胞移植とMD療法を行なって、どのくらい良くなったかという治療反応性をそれぞれみてみます。心臓に関しては心不全のマーカーBNPが30%以上低くなった場合を「効果があった」と考えておりますが、海外の文献ではNT-pro BNPというのを心臓のマーカーに用いていることが多いのですけれども、当院ではBNPとNT-pro BNP の両方測定しております。ただし2012年まではNT-pro BNPを国内で測定出来なかったため、今回の解析ではBNPを用いて解析しております。また腎臓がどのくらい良くなったかということに関しては、尿蛋白が50%以上減少して、かつクレアチニンが25%以上悪化していないということをみております。その他に、血中のフリーライトチェーン等がどれくらい良くなったかで、CR,(血液学的完全寛解)VGPR(非常によい部分寛解)、PR(部分寛解)、No response(ほとんど効果が見られない)という判断基準があります。今回解析したのは63例の患者さんで、年齢の中央値は54歳、年齢の条件は70歳、1番若い方で32歳でした。男女比はほぼ同じ1:1、障害されている臓器の数が1臓器だけの方が19例で30.2%、アミロイドの沈着臓器別ですと心臓アミロイドーシスの方が26人で41%、腎アミロイドーシスが66%、消化管アミロイドーシスが46%、複数の臓器障害の方がいらっしゃいますので、トータルすると100以上になっております。また、κとλでいうとλ型が多く、NT-proBNP、BNPについては心アミロイドーシスを合併していない患者さんもいらっしゃいますので、中央値で見るとそんな高い数字にはなっておりません。治療奏効がどのくらい得られたかについては、移植後6ヶ月目安に効果判定を行なっております。そうすると心臓アミロイドーシスでBNPが30%以上改善した方が9例で32.1%、腎臓では29.6%、これでいうと低いと思われる方もいらっしゃると思いますが、さらに長期にMD療法を続けて高い効果を得られている方もいらっしゃいます。血液的寛解については、CRが60%、反応が得られなかった方は1例です。生存率では、やはりそうとう早期に状態が悪くて亡くなってしまう方もいらっしゃるのですけれども、大体2年経過した時点で88%、5年の時点で77%です。ただ亡くなられた方が全員ALアミロイドーシスで亡くなられているという訳ではなくて、肺ガンや他のガンで亡くなったりした方の数も入っています。
★ 心臓にアミロイドーシスの有無による移植後の生存率の比較
心臓にアミロイドがついていると非常に生命予後が悪いということがわかっておりますので、心アミロイドーシスのある方とない方でどのくらい生存率が違うのかというのを解析したところ、心アミロイドーシスがある方については5年生存率が63.8%で、やはり全体の77%よりは少し悪くなってしまうという傾向はあります。また、移植後に心臓に対して効果が得られた方については、全例生存されておりまして、半年で効果が無かった方については、少し悪い傾向がみられております。あとは心室中隔(右心室と左心室を分けている壁の厚さ)が12ミリ以上の方ですと、やはり少し悪い傾向がありまして、諸外国の報告でもBNPが600から800以上は予後が悪いといわれているのですけれども、移植適用のところでBNP600以上の方については移植を行なうかどうかを慎重に判断しておりますので、そもそもBNP600以上の方が5例しかいらっしゃいませんでしたので、統計的な優位さはついていないのですが、やはりBNPが高いと予後が悪いのではないかということが示唆されます。
★ 移植後100日以内の死亡例についての解析
移植後に早期に何人かお亡くなりになられている方がいらっしゃるので、こちらについて何か対処できないかということで、100日以内の早期死亡について再度解析してみました。今までに5例の方がお亡くなりになってしまっているのですけれども、BNPの値が1250、1460と高値です。どうしても移植をせざるを得なかったと思うのですけれども、今後、移植適用を慎重に考えて、どう対処していくかというのを考えていきたいと思います。
★腎アミロイドーシス患者での心臓沈着の有無と予後の関係
腎臓アミロイドーシスがあっても、心臓にアミロイドーシスが無い方は8例ですが、全例が生存されています。ところが腎臓と心臓の両方にアミロイドーシスがあると、少し生存率が下がってしまいます。長期の予後の面でいいますと、やはり心臓のアミロイドーシスのコントロールが一番重要になってくるのはないかと思います。
★移植後に透析導入された患者さんの解析
腎臓アミロイドーシスは、心臓アミロイドーシスに比較して、生命予後に関しては悪くないと申し上げたのですが、透析を導入するというのは患者さんにとっては大きな問題となります。当院で「移植後に透析を導入した5例」について解析しました。移植後、約5年間で5人の方が透析導入にいたっておりますが、もともと腎臓にアミロイドーシスが無かった方に関しては透析は0%です。透析導入に関して、どの時点で移植の効果が無かったと判断すべきなのかというところで、何か指標がないかと検査値をみてみたのですが、eGFRという値が透析導入されなかった方については79、透析導入された方についてはで66.8ということで、透析に入った方は、移植前から腎機能が悪かったという傾向ですが、統計的な優位さになりませんでした。ところが、移植3ヶ月目にはeGFRで高度の差が出て来ておりまして、このようにeGFRが低下しはじめております。
★まとめ
結果をまとめさせていただきますと、移植はALアミロイドーシスに対して有効な治療法ですけれども、高度の臓器障害がある場合には移植を検討する必要があります。当院でも移植適応を設定していまして、医療成績は諸外国の報告と同等以上の非常に良い成績となっております。一方では移植を行なっても奏効が得られなかった方や、腎不全悪化により血液透析を導入せざるえない方もいらっしゃいます。諸外国からはボルテゾミブとデキサメタゾンによる地固め療法で高い効果を報告している論文もありますし、サリドマイド、レナリドマイドの有効性を示す報告もありますが、現在日本においては未承認ということで、どういったタイミングで新しい治療方法を取り入れていくかというのが課題ではないかと思っています。以上です。
「日本赤十字社医療センターにおける取り組みの最新情報」
日赤医療センター 血液内科 宮崎 寛至 先生
本日は、日赤医療センターにおいてALアミロイドーシスの治療がどのくらい効いて、どのくらい生存できるかということをお話していこうと思います。 現在、ALアミロイドーシスの治療は、臨床試験を含めて新しい治療開発が世界中でどんどん出て来ておりますが、確立した治療法というのは、現時点では自家末梢血造血幹細胞移植、とMD療法(メルファラン+デキサメタゾン)の2つだけになります。
★ MD療法と自家末梢血幹細胞移植とはどんな治療か
では、『MD療法』とはどういう治療かといいますと、「メルファラン」という抗腫瘍薬と「デキサメタゾン」というステロイドの2つを使って治療します。このMD療法を繰り返しやっていくと、徐々に異常な形質細胞が減っていきます。異常な形質細胞が減れば、アミロイドの元となる蛋白も減り、アミロイドの元の蛋白が減ると、身体についてしまったアミロイドもゆっくりゆっくり溶けていくので、臓器障害も少しずつ改善していく、そういう治療で、このMD療法は、開発された当時、殆どの方が臓器不全でどうにもならないというような疾患の生存率を大幅に改善させた画期的な治療法でした。それに対して『自家造血幹細胞移植』は、大量のメルファランを一気に叩き込むという治療で、大量のメルファランを入れた後に、事前に採っておいた幹細胞を入れて(移植して)血液を回復させていくというような治療です。大量のメルファランを入れると、異常な形質細胞が大幅に減少しますので、アミロイドの元となる蛋白も大幅に減少します。そして身体についてしまったアミロイドも時間をかけてゆっくりと溶けていき、臓器が徐々に回復していきます。その他の治療として、ボルテゾミブ(ベルケイド)をはじめ、いろいろな新規薬剤が世界中でどんどん開発され、試されていまして、当院でも臨床試験を始めていますが、現時点では報告がまだそれほど多くなく、現時点で治療として確立したものはまだありません。
★ 日赤医療センターにおける「MD療法」と「自家移植」の実際
当院では2007年から2016年の10年間で、約二百数十名の方のALアミロイドーシスの症例を治療していますが、MD療法を行なっている方が結構多くいらっしゃいまして、当院でMD療法を行なっている方に関しては、完全奏効率が45%くらいですね。やはりMD療法が効いている方は長期生存が可能で、5年生存率も45%くらいになります。この結果は最近の海外の結果とほぼ同様です。MD療法がいくら効く治療とはいえ、やはり厳しい状態で来られると遅い時がありますが、それでもMD療法がない時代から比べると、殆どゼロだった生存率がMD療法によって長期的には約5割に改善しています。それに対して、もうひとつの治療である「自家末梢血幹細胞移植」(自家移植)は「MD療法のみ」行なった場合と比べると圧倒的に生存率も完全奏効率も高くなります。この完全奏効率というのは、血液の中でアミロイドの元となる蛋白(κ、λ)が完全に正常になってしまう方の割合なのですが、これはおよそ8割で、そこが全くMD療法とは違います。自家移植が出来た症例では、長期的な生存の7割以上が10年ぐらいの生存で、5年生存率もやはり完全奏効が高い分、8割を超えてきています。去年7月に『MD療法と自家移植を比較した臨床試験』が世界中で行なわれました。これはメイヨークリニックからの報告ですが、自家移植を行なった方とMD療法のみの方を比較していくと、生存率がやはり倍ぐらい違います。MD療法では5年で半分ぐらい、自家移植では8割ぐらいの方が長期生存出来ているということで、海外の治療結果も当院の結果とほぼ同じになっています。 ただ、自家移植の最大の問題は、誰でも出来る治療ではないということですね。当院で実際に行なうことが出来たのは、この10年間で74症例。これを当院に来られたアミロイドーシスの患者さんの総数で割ると3割くらいで、これは他の施設に比べれば良いかもしれませんが、それでも3割ぐらいの人しか出来ないというのが移植の最大の問題です。治療開始が少しでも遅れてしまうと全身にアミロイドが沈着してしまって、自家移植できる状態ではなくなってしまいます。ですから出来るだけ早い状態で病院にきていただいて、早く診断し、早く治療を開始する、そして自家移植の可能な方は出来るだけ早い段階で自家移植を行なう、これが最も重要なことだと考えています。
★ 「ベルケイド」と「MD療法」との比較
その他の治療として使われているのが「ベルケイド」という薬なのですが、このベルケイドは残念ながら保険は通っておりません。当院で初回治療にベルケイドを用いたのは、およそ30例で、あまり多くありませんが、既に他院でベルケイドを使っていらっしゃった方、あるいは最初から多発性骨髄腫を合併している方に限ってベルケイド治療を行なっています。 MD療法とベルケイドの成績を比較すると、最終的にはベルケイドの方が少し上かなという感じはありますけれども、初期の20ヶ月、30ヶ月の時点では、MD療法もベルケイドも当院の治療では同等です。完全奏効率も約半数で、MD療法とそれほども変わりはありません。また生存率に関してもMD療法と同等の結果となっています。当院でベルケイドを使った方は、多発性骨髄腫を合併したりして状態が悪いというところもあるかもしれませんが、実は去年の12月、アメリカの血液学会で「MD療法+ベルケイド」と「単独のMD療法」を比較しています。この臨床試験では多くは初期症例ですが、ベルケイドというのは臓器障害が進行してしまった方に使うと思わぬ副作用が起こります。ステージ3とか4とかの進行してしまった患者さんに使うと結構重篤な副作用が出ることがわかっていますので、「早期症例のみに使ったらどうなったか」という報告が去年ありました。その結果、統計学的な優位さは5年の時点でついていません。最初の1年までは全く同じ経過をたどります。どちらかといえばベルケイドの方は最初に急に落ちて、2、3年のところでは少し差がついているようにみえますが、これは統計学的にあまり変わらないと当院ではみています。「ベルケイド+MD」と「MD療法単独」と比較すると、生存率は同等ですが、奏効率はベルケイドを入れた方が高くなります。ただし臨床試験でも実臨床でも、ベルケイドを上乗せした分、治療毒性がけっこう出ますので、奏効率は上がる反面、治療毒性がむしろ下げてしまいます。そう言う意味で、現時点でトータルでは同等、少なくともMD療法と自家移植を比べた時のような圧倒的な差は、MD療法にベルケイドを加えたところで出るわけではないということが判っています。 2018年3月に熊本で「国際アミロイドーシスシンポジウム」が開催されます。当院での治療結果をそのシンポジウムで発表させて頂く予定になっております。自家移植とMD療法、この2つが現時点では世界中で確立した治療法であり、新規治療は全世界でいろいろな臨床試験が行なわれていますが、治験を行なえない方に関しては、可能であれば早期に自家移植をおこなったほうが予後は良いだろうと思います。そしてさらに良い治療をどんどん開発していく必要があると考えます。
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