更新情報
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・第12回セミナーの映像を公開しました。(2024.11.2)
・令和5年度会計報告を掲載しました。(2024.11.2)
・第12回セミナーのご案内を掲載しました。(2024.8.15)
・第11回セミナーの活動報告を掲載しました。(2023.10.30)
・第11回セミナーのライブ配信映像を公開しました。(2023.10.30)
・第11回セミナーのご案内を掲載しました。(2023.9.10)
・「インタビュー調査について」を掲載しました。(2023.9.3)
・第10回セミナーの活動報告を掲載しました。(2022.11.3)
・第10回セミナーのライブ配信映像を公開しました。(2022.10.31)
・第10回セミナーのご案内を掲載しました。(2022.9.11)
・「用語集」を掲載しました。(2021.12.31)
・第9回セミナーの活動報告と映像公開のお知らせを掲載しました。(2021.11.5)
・令和2年度会計報告を掲載しました。(2021.10.30)
・第9回セミナーの視聴URLを掲載しました。(2021.10.17)
・第9回セミナーのご案内を掲載しました。(2021.9.5)
・令和元年度会計報告を掲載しました。(2020.10.11)
・第8回セミナーの講演要旨を資料ダウンロードに追加しました。(2019.12.22)
・第8回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2018.12.22)
・「活動報告」を追加しました。(2019.10.22)
・平成30年度会計報告を掲載しました。(2019.10.22)
・第8回セミナーのご案内と参加申込みページを掲載しました。(2019.8.12)
・第7回セミナーの講演要旨を資料ダウンロードに追加しました。(2018.12.24)
・第7回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2018.12.24)
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・平成29年度会計報告を掲載しました。(2018.11.3)
・第7回セミナーのご案内と参加申込みページを掲載しました。(2018.8.19)
・第6回セミナーの講演要旨を資料ダウンロードに追加しました。(2017.12.31)
・第6回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2017.12.31)
・「活動報告」を追加しました。(2017.12.23)
・平成28年度会計報告を掲載しました。(2017.7.5)
・「活動報告」を追加しました。(2017.7.5)
・「交流会参加申し込み」ページを追加しました。(2017.5.1)
・交流会のご案内を掲載しました。(2017.5.1)
・第5回セミナーの講演要旨を資料ダウンロードに追加しました。(2017.2.7)
・第5回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2017.2.7)
・「活動報告」を追加しました。(2016.11.27)
・「セミナー参加申し込み」ページを追加しました。(2016.8.31)
・第5回セミナーのご案内を掲載しました。(2016.8.31)
・「活動報告」を追加しました。(2016.6.26)
・平成27年度会計報告を掲載しました。(2016.5.17)
・交流会のご案内を掲載しました。(2016.4.24)
・第4回セミナーの講演要旨を掲載しました。(2015.11.29)
・「活動報告」を追加しました。(2015.10.31) ・第4回セミナーのポスターを掲載しました。(2015.8.24)
・第4回セミナーのご案内を掲載しました。(2015.8.24)
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腎臓からみたアミロイドーシス
社会医療法人厚生会 多治見市民病院 病院長 今井 裕一 先生
★アミロイドの定義(デンプンに似ているもの)
この病気が初めて報告されたのは、1850年頃です。しかし、長い間予後不良の疾患とされてきました。いろいろな治療法が出てきて、患者さんを助けられるようになったのは、ここ数年のことです。アミロイドの「アミ」は、「デンプン」、「ロイド」は「似ている」という意味で、医学用語でも「類デンプン症」という言葉を長い間使っていたのです。デンプンは、ヨードを反応させると紫になります。紫に染まるのは、糖が螺旋状の構造になっていて、その隙間にヨードが入って染まるためです。その染まった螺旋状のものを例えば唾液のアミラーゼという酵素で壊すと、ばらばらになるので、ヨードが結合しなくなり、紫色が消えてしまいます。最初に見つかった時に、それに似た反応から「アミロイド」という名前がつきました。しかし、アミロイドの定義は、「コンゴーレッドという染色液で染めると赤く染まり、そこを偏光顕微鏡でみるとアップルグリーン(緑色)に見えるもの」ということで、「アミロイドーシス」と診断する際にも、この染色反応が国際基準になります。
★アミロイドはタンパク質(タンパク質の構造とアミロイドーシス)
デンプンというのは、糖が多数結合してできた物質です。ところが体内に溜っているアミロイドを分析すると、アミノ酸が結合していることがわかりました。ですから、アミロイドは「デンプン」ではなくて、「タンパク質」であるということになります。我々の身体のタンパク質は20種類のアミノ酸から出来ています。タンパク質の種類は何千とあるのですが、それぞれの臓器によって構造、結合の仕方が全然違っています。タンパク質は、アミノ酸の配列が決まった順番で鎖のように連なっている状態(一次構造)から、立体的に螺旋状になるものや、βシートという折り畳んだ形(2次構造)、さらにその螺旋状のものとβシートが複数に組み合わさった立体(3次構造)を経て、さらに、出来上がった複数のタンパク質同士が結合して(4次構造)を形作っています。これらのタンパク質は、実際に私達の身体の中に存在している訳なのですが、あるタンパク質とあるタンパク質が反応するということは、まるで手の指と他の手の指がくっ付くような形になります。そのとき、手の「指」に相当しているのが「α螺旋」で、「手の平」はバネ状になっていて、螺旋をコントロールできるようになっています。アミロイドーシスは、この指にあたる螺旋の部分がチョンと切れて、手の平にあたるβシートだけがたくさん積み重なっていって、それがアミロイドの原材料となります。その手のひらが集まって太いアミロイド線維になり、太い線維は行き場がないので、血管とかいろいろな組織に溜ってしまうことでアミロイドーシスが起こると考えられています。アミロイドの起こり方がわかってきたのは、つい10年から15年くらい前のことです。治療としては、このβシートを減らすこと、それから出来かかっているアミロイド原線維をお互いにくっつかないようにする方法があります。さらには既に沈着しているアミロイドを溶かす治療法も考えられています。いずれは、そのようなことも可能になると考えられています。アミロイドーシスは前駆タンパクの種類によって、約30種類に分類されますが、AL以外に、AAや家族性トランスサイレチン、透析が原因で起きてくるβ2マイクログロブリンものなどがあります。一番多いのがALアミロイドーシスで、免疫グロブリンのL鎖(抗体の材料の一部)が原因になっているものです。
★「限局性アミロイドーシス」と「全身性アミロイドーシス」の違い
アミロイドーシスの発見のきっかけは、例えば、胃の生検で見つかるとか、喉のポリープを取ったら見つかったとか、あるいはタンパク尿が出て、腎生検でわかったとか、そのように必ず組織検査で見つかります。そのときにアミロイドの沈着が1カ所だけですと、限局性と呼びます。限局性で多いのは、声帯ポリープが出来て組織を採ってみたらアミロイドがあったという人、血尿が出て、膀胱の検査をやってわかったという人もいます。このような1カ所だけの場合ですと、5年、10年経っても、全身性に進むという事はまずありません。約5%ぐらいは全身性に進む方もいるのですけれど、95%の患者さんは進まないということです。2カ所以上からアミロイドが出てくると、全身性と判断して、治療が必要になってきます。アミロイドの前駆タンパクが何かというのを検査して、それに合せた治療を行います。全身性と限局性を見分けるもう1つの方法として、血液凝固系マーカー(TAT)と血液線溶系マーカー(PIC)というものがあります。全身性で活動性の人たちは、このTATとPICを測定すると、そのどちらとも高いのです。また、この数値は治療をして寛解になってくると下がってきます。このことから、病状が進んでいる、つまり活動している時には、血液の中で凝固が起きていて、それを溶かすことも起きているということがわかります。アミロイド線維が血液の中に浮いているという事は、異物が浮いているわけですから、その異物に反応して、凝固が起こり、凝固が起きると、それを溶かそうとするメカニズムが働くので、このようなことがおきているのではないかなと推測しています。アミロイドが1カ所で見つかると、入院して2カ所目をいろいろ検査します。お腹の脂肪組織とか胃や大腸生検、皮膚生検、腎生検、心筋生検など、いろいろなところを検査します。しかし、我々は、まずTATとPICを見て、その数値が高ければ、全身性の可能性を疑って、急いで検査をします。数値が基準内であれば、限局性の可能性が高いので、ゆっくり検査していっても構わないというようなスタイルで行っています。
★アミロイドーシスの全身症状
全身性アミロイドーシスでは、全身にいろいろな症状がでてきます。特に心臓に沈着している場合は、血圧が上がらないで立ちくらみとか、不整脈とか、息苦しいとかいう症状が生じます。腎臓ですと、足が浮腫んだり、尿に泡立ちがあるとか、タンパク尿が出でたりということになります。他には、舌が大きくなるということで来院した人もいますし、ショルダーパットといって、アメリカンフットボールのパットがあるような、肩が腫れてくるという方もいました。その他、手根管症候群で手のひらが痺れたり、他の神経に沈着して、手足が痺れたり、感覚が鈍くなったり、また、レッサーパンダ様の出血といって、目の周りに出血が起きることもあります。また、アミロイド皮膚苔癬といって、皮膚にアミロイドの塊がもりあがってくることもあります。
★腎臓の構造と働き
腎臓は左右に2個あり、ちょうど握りこぶし位の大きさで、背中側に存在しています。1日だいたい 1400 mlから1500 mlの尿を作っています。実際には最初の尿(原尿)の99%を再吸収して、不要なものを尿として1500 mlを出しています。1日は1440分ですので、1分間に約1 mlの尿が排泄されることになります。腎臓はソラマメのような形をしていますが、その中には、丸い糸の玉のような血管の瘤が片側の腎臓に100万個あります。これを糸球体と呼んでいます。ここで尿が一滴一滴つくられていきます。糸球体の大きさは1ミリの5分の1ぐらいですが、その働きは、わかり易く言うと、コーヒーフィルターのようなものです。血液の中の物質で小さいものとか水分は、1分間に100 mlこのフィルターを通過します。コーヒーの受け皿のコップにあたるのが、尿細管です。糸球体というフィルターに傷ができているとタンパク質が漏れ出してきます。すなわち尿にタンパクが出ていると、腎臓に何らかの異常があるということになります。尿タンパクは試験紙の色がどのくらい変わったかで、「−、±、1+、2+、3+」というふうに判断します。さらに、詳しくみるには、具体的な尿タンパク量を測定して、それをクレアチニンという値で割り算すると、1日どれくらいタンパク尿が出ているかがわかります。また、この糸球体が完全につぶれてしまうと、尿が流れてこないという状況になります。これを腎機能低下、あるいは腎不全と呼んでいます。腎臓の働きが落ちているという事は、潰れた糸球体の数が沢山増えてきているということになります。
★腎生検を実施するタイミング
尿検査をして、タンパクが3+(1日3g以上)になると「ネフローゼ」という状態になります。 1+(1日0.3〜0.5g)以上で腎生検を行います。腎生検をすると、どういう病気が生じているのかということが大体わかります。何故1+のあたりで腎生検を行なうかというと、尿タンパクが1日1.0 g以上ずっと出ている人は、どんどん腎臓が弱っていって腎不全になりやすいということがわかっています。ですから1+(1日0.3〜0.5g)から2+(1日0.5〜1.0g)のところで、腎生検をやった方が良いのではないかとされています。これは、日本腎臓学会で出しているデータですが、例えば、タンパク尿3+の人は、末期腎不全になる確率が、だいたい10年経つと、10%ぐらいになります。年に約1%ずつ腎不全の患者さんが増えているということになります。ですから、2+とかの方には、いろいろ検査をして対策を考えた方がいいのではないかとされています。また、尿は赤くはないのだけれど、尿検査をすると、尿中に血液が出ていることがあります。これを尿潜血といいますが、高齢女性の10〜20%が陽性になるので、こういう場合は、あまり治療の対象にならないことが多いです。タンパク尿が出ているという事の方が重要なサインになります。
★「e-GFR」と腎不全のリスク
血液検査に血清クレアチニンという数値があります。これは筋肉にあるタンパク質で、殆ど腎臓から排出されるので、腎臓が弱ってくると血液の中に溜ってきます。そのクレアチニンの数値から逆に推測して、腎臓の働きはこれくらいですよという数字を、「e-GFR」と呼んでいます。これは推測の腎機能になります。計算式があるので、患者さんの年齢とクレアチニンの値がわかると、e-GFRがわかるようになっています。普通の若い人では、だいたい100 (ml/分)ぐらいですが、加齢によって低下します。70歳の人は70、 80歳の人はそこから10減って60(ml/分)というようにだんだん下がってきます。ただし、検査時点で腎臓の働きが落ちている方は、急速に腎臓が弱ってきます。腎臓の働きが落ちていくと、どんどん負担が大きくなって、どんどん腎機能は弱ってきます。ですから、少なくともe−GFRが40から50くらいの人は、なるべく腎臓に負担をかけないように生活パターンを考えた方がよいと思います。この表は、日本腎臓学会で出している慢性腎臓病の重症度分類ですが、尿タンパクが1日1g以上出ている人と腎機能が弱っている人(e−GFR が45以下)は、進み方がとても早く、末期腎不全になる可能性が高いということを示しています。
★腎アミロイドーシスの発現パターンと病気の進行
腎アミロイドーシス(アミロイド腎症)は、タンパク尿+浮腫というネフローゼ症状で発症するパターンと、検診でタンパク尿とわかって腎生検をして見つかるパターン、もう1つは、他の組織でアミロイドが発見されて、全身の検査をしている間にタンパク尿が出て、腎生検でわかることもあります。(症例提示)この患者さんは、糸球体の周りの血管にアミロイドが沈着しています。別の患者さんは、糸球体にも、血管にもたくさん沈着していていますが、進行すると沈着部位が大きくなり結節ができてくることがあります。基底膜にトゲトゲができてくるようなタイプもあります。それ以外に、糸球体や血管ではなく、間質に溜ってくることもあります。沈着の仕方にもいろいろなパターンがありますが、血管の方に沈着が多い場合は、タンパク尿はなく、知らないうちに腎不全にゆっくりゆっくり進んでいくことが多いのです。一方、糸球体の方に沈着がおきている場合は、タンパク尿や血尿がおきてきます。
★ALアミロイドーシスが腎生検によって見つかる頻度
免疫グロブリンには、κ鎖とλ鎖という2種類の軽鎖があります。ALアミロイドーシスの患者さんの約80%がλ鎖型由来で、多発性骨髄腫と一緒に発生することもありますし、あるいは、くすぶり型といった患者さんがアミロイドーシスになってくるという場合もあります。アミロイドーシスの頻度は、平成26年に全身性アミロイドーシスとして難病申請をしている患者数が2581名ですから、およそ5万人に1人くらいの頻度になります。その中には、トランスサイレチン型という神経アミロイドーシス(約500人〜800人)も入っていますので、その数を除いた殆どはALアミロイドーシスです。全国の病院で腎生検を登録しています。年間、だいたい1万件という腎生検のデータが蓄積されています。その中の約1.4%、だいたい年間140件ぐらいが、新しく腎アミロイドーシスと診断されていて、診断される140人中60〜70人くらいが、大量のタンパク尿のネフローゼ症候群ということで腎生検をしているということになります。一方、アミロイドーシスで透析を行っている患者数は、全国で460人です。新規の透析導入は年間104名になっています。新しく腎臓アミロイドがわかる人が140人で、透析になる数が100人ですから、かなりの人が透析に入ってしまいます。ただし、これは5年くらい前のデータなので、今は、優れた治療が出されてきており、透析になる人が減ってきていますから、数年後のデータでは、大きく違っているのではないかと思います。
★ALアミロイドーシスの予後
無治療での診断後の平均生存は8ヶ月です。アミロイド腎症で、尿タンパクが5g以上出ていて腎機能が落ちている患者さんの予後は不良だと言われていました。さらに心アミロイドーシスもあると、もっと悪くなります。これも古いデータですが、2004年のメイヨークリニックのステージングでは、「①トロポニンT(心筋の障害を示すもの)が、0.025よりも高い」、「②NT-proBNP(心臓の働きが落ちているというのを示すもの)が1800以上」、「③フリーライトのλとκの異常と正常の差が180以上」、これが3つともあると、ステージ4で予後は6ヶ月ぐらい、ステージ3では1年、ステージ2では3年、ステージ1では8年となっています。ただし、治療への反応が良ければ、予後は大幅に変わります。(症例)これは私が経験した症例ですが、別の病院で心アミロイドーシスという診断がついて、トロポニンTも、NT-proBNPも高く、κとλの差が3600くらいあり、異常な形質細胞も13%くらいあるので、「多発性骨髄腫+心アミロイドーシスのステージ4」と診断されて、ストレッチャーで当院に送られてきました。この患者さんは、ラッキーなことに最初にデキサメタゾン大量投与を行ったら3600以上あったフリーライトのκ鎖が140までに落ちたのです。それからサリドマイドを使い、ちょっと横ばいになったところで「ボルテゾミブ+デキサメタゾン」に変えて、今5年間安定しています。しかも1年くらい前に、心臓のMRI検査を行い、以前は心臓にたくさん着いていたアミロイドが、全然なくなっていて、不整脈も治っていました。このように劇的に治療に反応して通常生活に戻る方もいます。最初のステージングは、その時点のものですが、それよりもっと重要なのが治療への反応性です。これによってかなり予後が変わってきます。
★ALアミロイドーシスの治療の進歩
昔から使っていた薬でメルファランがあります。これは悪い細胞の遺伝子を殺します。それから、ステロイド薬でデキサメタゾンがあります。これは、細胞を破壊させるような働きがあります。昔は「メルファラン+プレドニン」の治療が主流でしたが、残念ながらこれが奏功する人は大体20%ぐらいでした。ステロイドの「プレドニン」から「デキサメタゾン」に変えただけで、かなり予後が良くなりました。さらに5〜6年前に出たボルテゾミブで、大きく変わってきました。これは異常な形質細胞を自滅させる治療薬です。さらに同じくらいの時期にサリドマイドができて、その化学構造をちょっと変えたものとして、レナリドミドとか、ポマリドマイドなどができてきました。それから、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬というのが出てきています。現在アミロイドーシスを対象として治験中のダラツムマブ、これでは、形質細胞がCD38という表面タンパクを持っているのですが、その細胞をやっつける抗体薬で形質細胞を全部つぶしてしまおうというもので最強の治療になります。状況を見ながら、自己末梢血幹細胞移植を行うとか、新しい治療薬を組み合わせて使うなど、ここ5年間で、いろいろな治療法ができてきました。これは、最近出された治療に関するいろいろな論文を集めて再度評価した「Meta-Analysis」というものですが、デキサメタゾン(単独)の治療を「1」として、他の治療の効果を数字で表しています。この数値が少ない程、効き目があるという事なのですが、「ボルテゾミブ+デキサメタゾン」では0.67、「レナリドミド+デキサメタゾン」で0.35。「ダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン」で0.27、さらに「ダラツムマブ+レナリドミド+デキサメタゾン」では0.13で、デキサメタゾン単独の10倍ぐらい効きが良いということになります。このように新しい薬を組み合わせたり、いろいろ工夫しながら治療できる時代になってきました。ただし、腎機能が少し落ちている腎アミロイドーシスの患者さんは、やはり、腎臓に副作用の少ない薬で治療をおこなうことが大事になります。これらの治療を行いながら、食事療法(減塩や低タンンパク食など)を行います。また透析が必要な段階になっても、病気の活動性を沈静化させるという事が必要になってきます。フリーライトの動きとかデータを見ながら治療が必要な場合もあります。
★透析について(腹膜透析、血液透析、血液濾過透析)
透析には、血液透析と腹膜透析がありますが、「腹膜透析」というのは、温めた砂糖水(腹膜透析液)をお腹に入れて、約5時間で血液の毒素が腹膜に移動したころに新しい腹膜透析液を交換する透析です。これまでの我々の研究では、前駆タンパクの除去については「腹膜透析」より「血液透析」の方がよいデータがあります。また、普通の「血液透析:HD」よりも「血液濾過透析:HDF」の方が良いです。「血液透析」は、血液を体内から取り出して、ダイアライザーという透析器を通して血液中の余分なものを取り除き、きれいになった血液を体内に戻すのですが、「血液濾過透析」というのは、「血液透析」よりも目の粗い透析膜を使います。その時に、大量の点滴を入れて大量に除去します。老廃物を大量に除去できるので、こちらの方がお薦めではないかなと思います。その他、移植というのもあるのですが、これは化学療法で安定化してからやるということになるのではないかなと思います。ALアミロイドーシスは大幅に予後が改善してきています。さらに、現在いろいろな薬剤の開発が行われておりますので、完治できる疾患になりつつあります。
日本赤十字社医療センターからの報告
ALアミロイドーシスの治療戦略2019
日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター長 鈴木 憲史 先生
★最新ニュースとして
今年の12月に「ダラツムマブ+サイバーD療法」というのが、アメリカの学会で発表されるのですが、良さそうです。これから数年のうちに良い薬が出てくるので、それまで頑張ってやっていくということが大事です。
★遺伝子異常とアミロイドーシス
最近、無症候性のアミロイドーシスが非常に多いと言われています。アミロイドーシスの頻度は大体5万人に1人といわれていましたが、もっと多いではないかと最近は言われています。だいたい60歳を超えると100人に1人の割合で異常な蛋白が増えてきてMGUSという状態になりますが、そのうちの一部がアミロイドーシスになり、もう一方は、くすぶり型の骨髄腫から多発性骨髄腫になっていく、この違いは何なのだろうというのを研究のテーマにしていました。それは、遺伝子の異常の違いなのです。アミロイドーシスも多発性骨髄腫も、どちらも免疫グロブリンをつくる遺伝子がおかしくなるのですが、多発性骨髄腫の人の場合は、おかしくなる遺伝子が非常に多い、それに対してアミロイドーシスになる人は、MGUSのままどちらの病気へもいかない人と多発性骨髄腫になる人とのちょうど中間くらいの遺伝子異常がおきています。また、遺伝子異常の場所や変化の仕方によって、病気の性格が違ってくるということも判ってきていて、遺伝子異常がこの場所にあったら心臓にいくとか、ここにあったら腎臓にいくとか、そういうことが、そう遠くなく判ってくると思います。
★抗体薬の開発への期待
タンパク質は、アミノ酸の配列が決まると、立体構造もきまるのですが、アミロイド蛋白は、その並び方は同じなのに、畳み込みが違うのです。これを「ミスホールディング」というのですけれども、畳み込むとき、本当は外に出ているところが内側に入ってしまう。そうすると、親水性で水に溶けやすい面が上にきているのが、裏返しになって、疎水性(水に溶けにくい)の方がきてしまうと、べたべた蛋白になってしまうのですね。このベタベタのところに対する抗体薬を作って、免疫でこれをやっつけてしまおうという治療が、3年前からお話ししていたNEOD001ですが、残念ながら第3相の治験中に亡くなる人が何人も出て、中止になってしまいました。ですが、今後もそういう治療法が出てくる可能性が高いと思うのです。こういう治療法が出来るようになると、悪い蛋白が減るより先に、沈着して弱ってしまった臓器が元気になるということで、非常に期待しています。
★腎アミロイドーシスにおける予後因子
一般に心臓の悪さを見る指標として、NT-proBNPとBNPがあります。メイヨークリニックではNT-proBNPを用いていますが、ボストン大学から、「腎臓が悪い人の心臓の悪さを見る時にはBNPも良い」ということが発表されました。やはり『BNPが700以上』ある人は、非常に厳しいといわれています。その他、今年の日本内科学会総会で腎臓がどのように予後に関係するかという事を調べた当センターの結果では、『e-GFRが60以下』、『κλ差が150以上』が予後のリスク因子となっています。治療に非常に良く反応して良くなったという人は良いのですが、κとλの差が80以上、経過中に急性の腎障害がおきた場合は、リスクがあると考えます。
★現在、日本でおこなわれている治療
現在できる治療は、異常な蛋白を叩くということが大事で、基本はやはり「MD療法」と「自己末梢血幹細胞移植」ですね。それから血液内科と腎臓内科、循環器内科、神経内科とか、いろいろな診療科と連携して治療をすすめていく事が大事です。最近MD療法だけよりも、MDにベルケイドを加えたBMDの方がいいのではないかと言われていますが、まだ、ベルケイドは保険上アミロイドーシスには使えないという現状があります。でもMD療法が効かない人にはBMD療法というのは良いと思います。もちろん自己末梢血幹細胞移植(自家移植)というのも非常に有効です。ただ、この治療は、全員が出来る訳ではなくて、アメリカでも移植が出来るのは20%ぐらいと言われています。日本では70歳ぐらいを一応目安にして、条件が揃えばやるということになっています。やれた人は条件もいいのですけれど、経過もいいという結果が出ています。昔は移植による死亡が15%ぐらいあったのですが、2016年ぐらいになると、2〜3%となって、安全性が高まってきましたし、当院の患者さんでも経過は良好であると言えます。若い人で移植適応でない症例は、予後が不良です。でも、MD療法の全奏効率が67%、完全寛解が33%ですから、新規薬剤も先生と相談しながら使っていったら良いと思います。さらにALアミロイドーシスの35%くらいの患者さんに染色体の11番と14番の転座という遺伝子異常がみられるということから、このへんのところに有効な治療がこれから出てきますので、一日一日養生しながら頑張ってもらいたいなと思います。それと、やはり早期診断早期発見が重要ですし、心臓リハビリということも考えていかなければならないと思います。また腎臓に関しては、特に、透析になってしまうのは非常に残念なので、出来るだけ塩分を控えて、タンパク質は肉で摂ると良いという今井先生のお話は非常に参考になったと思います。それを是非守って腎臓を大事にしてもらいたいと思います。浮腫むと足に血栓が出来やすいので、昼間は足を高くしている時間をとり、弾性ストッキングを併用すると良いと思います。それから、いったん良くなったら、そのまま安定して治ったように思える様な人もいるのですが、そうでない人もいることも確かなので、いったん良くなっても、定期的なフォローは必ず受けてください。
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