プロフィール

上野 芳江

秋田県出身、東京都在住の一般人。

高校時代、知らぬまに文芸部に入部させられ、小説を書き始める。

その後、細々とお話しを作り、現在に至る。

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トマトとモッツァレラチーズのサラダ

 昔むかし、大草原に牛の夫婦が住んでいました。おいしい草をいっぱい食べて、元気な子牛をボコボコ産んで、あっという間に大家族になりました。大草原をうめつくす牛たちが、おいしい草をいっぱい食べると、草原はあっという間に砂漠になりました。食べるものがなくなると、牛の夫婦は夜のうちに、大家族をひきつれて遠くの草原へと移住していきました。

 夜が明けると、砂漠のまん中にたった一匹、子牛が残っていました。おいてきぼりの子牛はしばらく泣いていましたが、そのうちにお腹が空いてきたので、小さなオアシスのほとりにはえた木になった、青い実を食べました。1つ、2つ、3つ目を飲み込んだところで、息が詰まって苦しくなって、そのうち窒息して死んでしまいました。 また一夜明けて、空の彼方から一羽のハゲタカが舞い降りると、鋭いくちばしで子牛の死骸をつつきました。目や頬や口元を集中的に攻めます。顔の辺りがおいしいのでしょうか。目の奥の脳みそをついばんだところでお腹がいっぱいになったようです。重そうに羽ばたくと、ハゲタカは空へと戻っていきました。

 もう一夜明けて、北の方から一匹のハイエナがやってきました。血のにおいに誘われて子牛の死骸にたどりつくと、脇腹にかぶりつきました。最初に肝臓。トロッとした食感にめまいがしたところで、次に腎臓。コリコリとした歯ごたえが後をひきます。そのまま腿からお尻へ。やわらかい筋肉を堪能して、今度は胃にかぶりつくと、ガリッと変な音がします。消化しなかった青い実に歯が突き刺さったのです。口にあわなかったのか、ハイエナはもと来た道を引き返していきました。

 さらに一夜が明けました。水平線の向こうから一頭のラクダが近付いてきます。背中に大きな荷物を載せて、そのまん中には人間の子供が座っています。オアシスまで来てラクダが水を飲んでいると、人間の子供は周りに漂う血のにおいに気がつきました。風上に目をこらすと、子牛の死骸が見つかりました。おいしいところはほとんど食べられてしまっていましたが、胃袋が残っています。子供は臓物の焼肉が大好物でした。持って帰って、おかあさんに焼いてもらおうと、持っていたナイフで胃袋を切り、縄で縛って背負いました。

 おひさまが沈んで、月が昇って、月が沈んで、またおひさまが昇って。何度か繰り返すあいだに、ラクダと子供は広い砂漠を渡り切りました。村の入口にたどりつくと、そこにおかあさんが立っていました。

 「おかえり。」

 「ただいま、お母さん。おみやげだよ。」 そういって子供は、子牛の胃袋を渡しました。

 「まあ、どうしたの。」

 「砂漠に落ちていたから、拾ってきた。」 胃袋の中でいつの間にか、青い実が赤く熟しているのが、透けて見えました。

 家に戻ると、村じゅうの人たちが集まっていました。

 「おまえすごいなあ。砂漠を一人で渡ってくるなんて。」

 「私の子供だもの。」 そう言っておかあさんは、赤と白の色あざやかな料理を持ってきました。

 「おまえのおみやげだよ。」 子牛の胃袋のなかで完熟したトマトと、胃に残っていたミルクが醗酵したモッツァレラチーズのサラダでした。

 サラダは、みんなで食べて、あっという間になくなってしまったけれど、太陽と月が育んだ、トマトとモッツァレラチーズのおいしさは、いつまでも、村の伝説として、語りつがれたということです。

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