お知らせ

2017年4月1日租税正義研究学会のホームページを開設しました。

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設立趣意書

租税正義研究学会 設立趣意書


 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ ; The International Consortium of Investigative Journalists)がスクープした、パナマ文書(the Panama Papers)は、世界に衝撃を与えると同時に、税制とは何かをあらめて問う機縁となった。

 その後、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した租税回避に関する報道が相次いでなされた。なかでも、わが国政府税制調査会が開いた部会において、金融資産などの税率を低率にしている国・地域(22か国・地域)に対し、域外から受け入れた金銭残高が、2015年に約470兆円であったことが公表された。これは、世界全体の金融資産残高の17%で、経済大国米国でさえ14%、日・英が共に3 %であるとの試算で、このデータにより、多国籍企業や富裕者からの資金がタックスヘイブンに大規模に流入していることがわかった。

 タックスヘイブンを利用した国際的な租税回避(tax avoidance)は、脱税(tax evasion)とならないとの学説でほぼ一致している。それは、脱税が課税要件の充足の事実を全部又は一部を秘匿する行為であるのに対し、租税回避は、課税要件の充足そのものを回避する行為であるとされ、いわゆる法の欠缺状態で、その行為じたいを裁く拠るべき税法が見あたらないためとされている。わが国では、タックスヘイブン税制が施行されているものの、この網の目をくぐる租税回避が横行していると推測され、一国一法主義に限界をきたしているとの見方が強い。
 パナマ文書を機縁として、世界の税制の在り方が、あらためて問われている。
 このスクープは当初、南ドイツ新聞にて報じられ、パナマ文書の量の膨大さとその内容の重大さから、国際調査報道機関という各国の新聞社等が加盟する民間組織にその分析が委ねられた。
 法の正義論で、大きな地位を占めているグスタフ・ラートブルフは、第二次大戦後の1946年、焦土の中で、「南ドイツ法曹新聞」に、「実定法の不法と実定法を超える法」を発表し、法の正義の価値が、形式的な法的安定性に対して優越することをはじめて言明した。パナマ文書のスクープが南ドイツ新聞でなされたことと、ラートブルフが法の正義の概念を南ドイツ法曹新聞で宣明したこととが偶然とは考えられない。
 近代国家成立とともに、発達した法律体系は一国一法主義であり、21世紀のグローバル化、ボーダレス化した経済環境を考慮したものではない。
 特に、租税法は、所得の源泉が経済活動と密接に関係しており、現行のグローバルな 経済環境を踏まえた、国際的見地からの税制を学術的に研究し、現行の法の欠缺状態を補わなければならない情勢となっている。
 ラートブルフは、ハイデルベルク大学教授であった、1933年5月9日、ナチス政権下公職追放された。その後、1935年オックスフォード大学に客員として招かれ、戦後は戦時中に制定された悪法の改正に取り組んだ人物である。また彼は、戦前において、実定法を根底に取り組んだ法理論を展開したことを顧みて、法にも悪法があり、これを正すことが戦後なすべき、己に課された責務と捉えていた。このことは、彼の論文、「正義と恩寵」、「実定法の不法と実定法を超える法」などからも明らかである。
 彼の法理論の根底には、法の正義があり、それは、国民の大多数と国家にとって最も適切な法律であると解され、そこに、合目的性も認識され、しかも大多数の民衆が支持する法であれば法的安定性も形成されると考えたものと思われる。
 斯かる認識に立ち、租税正義に関する学術的な研究を目的とし、当学会を設立する。

 発起人 大橋 豊彦

神野 宗介

佐藤 正勝

髙田 順三

松田 義幸

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